アフターダーク / 村上春樹 | [A] Across The Universe

アフターダーク / 村上春樹

渋谷での夜(11:56PM)から朝(6:57AM)までの、ある少女と家で寝ているその姉を取り巻く物語。

この本は村上春樹のやや実験的な試みを読み取ることができる。
物語を語るのは、特定された誰でもない。

空から、空間から、壁から人々を見つめる、実体のない「視点」が物語る。
その視点の推移によって、読者は場面を同じように転換させる。

いつものように、はっきりとした結末はない。
彼の作品は今までだって明確な結末はなかった。

ファミレス、ラブホテル、売春、暴力、引きこもり、ドロップアウト、家庭。

こうして、この物語のキーワードを抜き出すと、現代の縮図が浮かび上がるようでもあり、見えにくかった物語のテーマも明らかになるような気がする。

実は今日だって、この物語と同じ様な事態が渋谷では展開していてもおかしくない。
いや、きっと似た様な状況が展開しているんだろう。


外見からは想像出来ないような暴力を働いたあとで、早朝にエリートらしき男はセブンイレブンで牛乳を手にする。

朝までバンドの練習をし続けた若者が、朝飯を仕入れるためにセブンイレブンで牛乳を手にする。

まったく異質なものが、とある一点で無意味に交わる。




二本に交錯した線は、その後も交わることはない。

都会には様々な線が入り乱れている。
そこ(渋谷)で朝まで過ごすことがあれば、まれにいろいろな線に交わることがある。

太い線、細い線、赤い線、グレーの線、歪んだ線。

深夜(アフターダーク)には、明るい光で見え難くなっている線が、それぞれ鈍い光を放ってうごめいている。


この本を読むとカーティス・フラーの「ファイブスポット・アフターダーク」を無性に聞きたくなる。
これが「ひしひしと」いいんだ。





アフターダーク (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
売り上げランキング: 28366
おすすめ度の平均: 3.5
4 カメラワーク
1 つまらない。
5 実験作
1 駄作
3 村上春樹、はじめて読みました