回転木馬のデッド・ヒート / 村上春樹 | [A] Across The Universe

回転木馬のデッド・ヒート / 村上春樹

村上春樹が、小説を書く上で人から見たり聞いたりした内容。


それはある部分は長編小説にの一部として活用されるかもしれないが、ある部分は不要なものとして彼の記憶の中に埋もれていく。
しかし、そんな不要物の固まりが自ら意思を持って表面に出て来ようとすることがある、と彼は言う。

そうやって表面に出てきた事実の破片が、この「回転木馬のデッド・ヒート」だ。


この本は8つの短編からなっている。

そのひとつひとつがそれぞれにまったく異なる特徴を持ち、当然だがリアリティを持って私たちに迫ってくる。
原則として事実に即して書かれているからだ。

私はこの短編集に出てくるような事態に遭遇したことは一度もない。

しかし、生きていればこの先、いずれかの話に似た話を自分以外の人から聞かされることがあるような気がする。

そして、残念ながらこの短編集に網羅されている話はすべて愉快な話からは遠いところに位置している。



ドイツ人用の半ズボンが原因で母が夫と娘を捨てた話【レーダーホーゼン】。

上手くもないチェコ人の画家から買った何気ない絵に描かれていた男に偶然出会う【タクシーに乗った男】。

人を傷つけることが天才的に上手い女が人生でたどり着いた先は【今は亡き王女のための】。

出版社に勤め不倫をしていた女が職を失い、休暇中に男を買う話【雨やどり】。


特に私が好きなこの4つの話は事実であるにもかかわらず、作り話のように完成されている。



あまり愉快な話ではないけれど、だからこそリアリティに溢れている。






回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
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おすすめ度の平均: 4.5
3 タイトルは映画の引用だった
4 村上ヒアリングの成果?
3 事実に即した小説の憂鬱
4 考えてみたら
5 不思議に引き込まれる物語の数々、子どものころ絵本を読んだ感覚