TVピープル / 村上春樹 | [A] Across The Universe

TVピープル / 村上春樹

短編を読むだけではわからなかったものが、彼の長編を読むことによって明らかにされることがある。


この短編の中の作品、「TVピープル」と「加納クレタ」については、「ねじまき鳥」に関連している。

最初の短編「TVピープル」は、語感が何となく1Q84に出てくる「リトルピープル」に似ている。
そして、その存在自体が不可思議なところもそっくりだ。

しかし、主人公の妻が家に戻って来なくなるという設定は「ねじまき鳥」で展開される話だ。

また「加納クレタ」は、そのまま「ねじまき鳥」に姉のマルタとともに登場する人物である。
この短編からは、クレタの「犯されやすい」性質が「ねじまき鳥」で使われている。

ただし、マルタの設定はまったく異なる。


その他の短編は、村上春樹独自のワールド全開だ。

「我らの時代のフォークロア」はどこまで行っても人生が交錯しない男女の話。
一本の直線に見える程近接して平行に走る二本の直線は、やがて交わることは可能なのか。
交わらないとしたら、それは時代のせいなのか。


非常にシンプルなホラー「ゾンビ」。
最後の一行「彼女は目を閉じた。続いているのだ。」

この一文だけで、読者は村上春樹を感じるのだ。
彼らしさをわざと出そうと計算した一文であるならば、さすがだ。


そして、賛否両論があるだろう「眠り」。

眠れない女の話。
ストーリー、展開ともにまさに村上なのだが、どうしても私には結末を受け入れるのが難しい。
何度読んでも違和感をぬぐい去ることができない。


だから、本棚にこの短編集を見ると必ず「眠り」を思い出してしまう。
そして、違和感を感じてしまう。




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4 移行期の作品集:「感傷」と「闇」
5 無重力空間を漂っているような一冊
4 不思議さ100%
4 「眠り」は面白い!