幽霊人命救助隊 | [A] Across The Universe

幽霊人命救助隊

一生懸命崖を上り、やっとのことでたどり着き、引っ張り上げられた崖の上には摩訶不思議な世界が広がっていた。

そこには自分以外の3人の人間がいた。
そこでその3人に教えられたのは、衝撃的な事実だった。
自分は自ら命を絶ったのだと。
なんと自分も含めたその4人は、自殺をして命を落とした過去を持っていた。

そこへ神様が空からパラシュートで降りてきて指令を出す。
その指令とは、下界に戻って7週間の間に自殺しそうな人を100人救うこと。
こうしてお揃いのつなぎを身にまとい、救助隊としての活動を始めることになる。

この作品の面白さのひとつは、救助隊の面々のキャラクターが良く作りこまれていること。
それぞれ生きていた時代が違う、やくざ、サラリーマン、ギャル、受験生。
それぞれの特徴がうまく生かされており、生きていた時代背景が異なるが故の話題の相違が、暗くなりがちなテーマに良い意味での「軽さ」を持たせている。
そして、下界で生きている人たちが抱えている悩みとは、実は彼らが過去に経験していた心の痛みでもあったりする。
この辺りが、彼らの救助活動に生かされていく。

死んでしまった救助隊だからこそ、もう取り返しがつかない立場にいる彼らだからこそ、理解できる苦しみがある。
そしてもう戻れない彼らだからこそ、生きている人には大切にして欲しい何かがある。
真面目に伝えようとすると、どうしても重くなりがちなテーマを、幽霊の救助隊という設定を使うことで、軽さと重さを対比してみせる巧さ。
読み物として完成度が高かった。

ちなみに、私がこの本を購入したのは、とある書店のPOPに惹かれたから。
とにかく絶賛されており、幽霊の救助隊という設定が気になり、「泣ける」という言葉にも反応した。
が、この小説ではまったく泣けなかった。
人生経験の少ない中高生であれば、泣くことはあるかもしれない、とだけ言っておく。





幽霊人命救助隊 (文春文庫)
高野 和明
文藝春秋
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