[A] Across The Universe -7ページ目

風の歌を聴け / 村上春樹

とりあえずBest10は発表してしまったので、あとはBest10には入らなかった村上作品について。

それぞれの特徴があってどれも好きな作品ばかり。
この中から将来手放せなくなる作品がきっとある。





この本を初めて読んだのは高校生だったと思う。

この本を読んで、ビールを飲みながらサンドウィッチを食べるのがとても格好いいことだと思ったのだった。

そして、そんなことはとっくに忘れていたけど、今でもビールを飲みながらサンドウィッチを食べることが格好良いことだと思っている私がいる。

25年前の刷り込み。


これといってドラマティックなストーリーが展開するわけでもなく、心震わせるエピソードが語られるわけではない。

それなのに、彼の癖のある独特な文体がひきつけて離さなかった。

それは今でも変わらない。




地元に帰った大学生のひと夏の思い出。

鼠とボクとジェイズバー。



夏にはやっぱりビールだろ。

そう思う。





10本の指を順番どおりにきちんと点検してしまわないうちは次の話は始まらない。いつものことだ。


ひどく暑い夜だった。半熟卵ができるほどの暑さだ。








風の歌を聴け (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
売り上げランキング: 2364
おすすめ度の平均: 4.5
3 いいとは思う
5 流れる空気が心地良い
4 愛着を覚える作品。
4 こいつがデビュー作か
2 鼻につく。好きなネタとか節は多いんだけど、ハードボイルドな感じがどうしても受けつけない。たぶん彼が故人だったら許せてたんだろうな。




個人的村上春樹Best10 第1位 

個人的村上春樹Best10 

とっておきの第1位は











「国境の南 太陽の西 」










村上春樹の作品の中で、一番切ない物語だと思う。

登場人物にもクセがなく、あの独特の雰囲気もない。
ただひとつ、村上作品を通して流れている「生と死」というテーマをもっとも濃厚に感じることが出来る作品。



12歳で通う中学が離れて以降、心残りはあっても、一度も顔を合わすことがなかったハジメと島本さん。

ハジメはそれなりの学生生活を送り、教科書出版会社でサラリーマンとして働く。

しかし、心の中はいつもぽっかりと穴が開いていた。


それは、

彼のそばに島本さんがいなかったから。


彼は、結局のところ「島本さんから離れるべきではなかったのだ」


旅行先で現在の妻と出会い、結婚。

義父が持つ青山のビルで始めたジャズバーが成功し、二人の娘にも恵まれる。
実業家としての地位も手に入れ、最愛の妻と二人の娘と絵に描いたような生活をおくるハジメ。


37歳になった彼の前に、島本さんは突然姿を現す。

抑えようにも抑えられない感情。
一方、穏やかな生活は手放したくない。

運命との葛藤。

二人は深夜、車で箱根へ向かう。


島本さんは言う。

「私を手に入れるには中間はないの。全部手に入れるか、全部手放すか」

島本さんが持ってきたプレゼントは、昔二人で聞いたナット・キング・コールの「国境の南」が入っているレコードだった。


切ないな。
すべてが切ない。

何度読んでも切ないのだけど、何度読んでも心惹かれる。

若い頃は「ノルウェーの森」を超える村上作品はない、と思っていたのに。
この作品が心に染みる年齢にたどり着いたんだろう。

20代に読んだ時、30代に入った頃読んだ時。
これほど心には染み入って来なかった。

40を過ぎた今改めて読み返して、心にズーンと響いてきた。

年を経る度に自分の心も変遷していくんだ。





国境の南、太陽の西 (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
売り上げランキング: 9579
おすすめ度の平均: 4.5
3 最初がこれだと肩透かしを食らうかも
5 隠れた名作
4 過去への郷愁
5 傑作揃いの春樹作品の中でも、ひときわ輝きを放つ秀作。
5 私を丸裸にする隣のお兄さん





個人的村上春樹Best10 第2位 

個人的村上春樹Best10 

第2位は










「ノルウェイの森」








とにかく、この本が好きだ。
初めて読んだ時から、何度読んでも、何年経っても好きだ。

初期村上作品に登場する「僕」と同じ性格であろうと思われる「ワタナベ」と「直子」、そして「緑」との若き日々を記録した物語。

どうしてこれほど、この物語が若い頃から私の心に居着いて離れないのだろう。

それも性的な描写がふんだんに盛り込まれているにもかかわらず。


まずは、登場人物のキャラクターに依るところが大きいのだと思う。

この物語以前の村上作品には、とにかくクールな人物ばかりが登場し、やや浮世離れしていた感はある。
しかし、「ノルウェイ」ではみんなが生きている。

特に「緑」の生へのエネルギーは読む者を快く圧倒する。
静的で内向的な「直子」とは非常に対照的であるところが、物語を面白くする。

その間で「ワタナベ」は揺れ動く。


こう端的に書くと、若者がただ二人の女性の間を揺れ動くだけの物語になってしまうが、まったく違う。

これ以上深く書くとあらすじになってしまうのでやめておくが、そんな薄っぺらい話ではない。
故にあれから20年近く経った今読んでも心を打つ内容なのだ。


なぜなら

それは、「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」

このテーマが、この小説の頭から最後まで一貫して色濃く流れているからだ。

だから、悲しいほどに物語の中の「性」的な描写が「生」の象徴として違和感なく流れていく。




改めて読み返して、この本からも自分は影響を受けていたことをまた見つけてしまった。

数年前まで、酒のツマミにピスタチオを好んで食べていたのは、そういえばこの小説の影響だった。





ノルウェイの森 上 (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
売り上げランキング: 1052
おすすめ度の平均: 4.0
3 頭がおかしくなりそうな小説
4 インチキな大人なりの楽しみ方
5 春樹作品では間違いなく傑作です。
5 純文学
1 ある本屋の「む」の棚の前で聞こえよがしの書評会がおっ広げられたとさ。




ノルウェイの森 下 (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
売り上げランキング: 1205
おすすめ度の平均: 4.0
5 読者が自分で翻訳する本
4 喪失の哀しさ
4 期待以上でした
5 村上春樹はこれだけじゃないよ!
3 読後のやりきれなさ








個人的村上春樹Best10 第3位 

個人的村上春樹Best10 
いよいよBest3。

といっても個人的だけど。








第3位は









「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド 」









とにかくものすごいパラレルワールド。


まず、「ハードボイルド・ワンダーランド」。

首都東京の地下では「やみくろ」が跋扈し、計算士と記号士がお互いにしのぎをけずる。
計算士である主人公は、地下道の奥に住む博士から秘密の依頼を受けて徐々にトラブルに巻き込まれていく。


そしてもうひとつのストーリー「世界の終わり」。

高い壁で周囲を覆われている、とある街。
そこには争いも、悲しみも、欲望さえも存在しない静かで完璧に完結した街だった。
主人公は両目に「夢読み」としての刻印を入れられ、図書館で毎夜一角獣の頭骨から淡々と古い夢を読むのが仕事だった。


このまったく繋がりがないかのような二つのストーリーが交互に展開していく。

「ハードボイルド・ワンダーランド」で、博士から一角獣の頭骨をお土産にもらった主人公は、その頭骨を調べた時から図書館に勤める女の子と親しくなる。

「世界の終わり」で、図書館で一角獣の頭骨から夢を読む主人公は、そこで世話をしてくれる「心がない」女の子に好意を抱く。



一角獣。


図書館。



奇妙な接点を見せながら進行していく二つのストーリーは、終盤に驚くような展開をみせる。



「ハードボイルド・ワンダーランド」で、主人公が行なうシャフリング。
これは、頭の中で行なう暗号化だ。

シャフリングとは、記号士の脳の奥深くに暗号化に必要な手術を行なうことによって、記号士本人にも気づくことが出来ないうちに暗号化を行なうこと。

主人公はシャフリングの手術を受けると同時に、ひそかに主人公の意識の核を人為的に映像化したもうひとつの「意識の核」を脳内に組み込まれていた。


「世界の終わり」では、最初に「影」と身体を切り離された主人公は、自らの「影」から街の地図を描いて届けるように依頼される。

門番の警戒を潜り抜けて「影」に地図を届けた主人公は、街から抜け出す方法を「影」から知らされる。


こういう「とてつもない」独特の物語を書くことが出来るのは、やっぱり村上春樹しかいないのだ。

登場人物が困難な状況に陥っても、誰一人狼狽しない。

これだけの冒険物語を、心静かに読ませることが出来るのは彼しかいない。








世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 823
おすすめ度の平均: 4.5
1 申し訳無いです!わからない!
5 「可能性の世界」について
4 読ませる
4 春樹嫌いでも
1 弱々しい物語




世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 936
おすすめ度の平均: 4.5
4 吹き飛ばされたアイデンティティー
5 どんどん読める!
4 全体的に緩やか。
5 幻想的な現実感
5 村上春樹からの壮大なメッセージ





個人的村上春樹Best10 第4位 

個人的村上春樹Best10 

第4位は







「パン屋再襲撃」







村上春樹の短編集の中で最も好きな作品。

一編一編のクオリティが非常に高い。


「パン屋再襲撃」

まず、この「再」襲撃の意味についてだが、登場人物は短編集「カンガルー日和」の中で若い頃に一度パン屋を襲撃した過去を持つ。
だから、「カンガルー日和」を事前に読んだことがあれば倍増とまでいかなくても、楽しさは増す。

そして、当時のパン屋襲撃の呪いが今は結婚した夫婦に襲いかかる。

呪いによって真夜中に激しい空腹感に苛まれた夫婦は、車を走らせ「マクドナルド」を襲うことにした。
夫婦の呪いは解くことができるのか。



そして、これも名作「象の消滅」。

町で飼育していた象がある日突然、飼育員とともにこつ然と姿を消してしまう。

それは状況から見て明らかに逃げたのではなかった。
消滅したのだ。

ただ、そんなことは誰も信用しないが「僕」だけは人に言えないものを目にしていたのだった。



「ファミリー・アフェア」

村上春樹の作品で主人公の兄弟が主体的に登場する物語はあまりないので、この作品は非常に珍しい。

兄と妹のファミリー・アフェアが描かれる。

村上作品にいつも登場するような、社会を斜に構えて見ている「僕」に対して現実的な「妹」。
その妹が婚約した。

相手の男との関係の中で見せる兄妹の掛け合いが、非常にユーモラス。

兄妹とはいえ、これほどコミカルに人間関係が描かれる村上作品が他にあるだろうか。



「双子と沈んだ大陸」

この双子は「ピンボール」に登場する双子。

主人公はこの双子が家から出て行ってしまった後に、偶然雑誌の写真で彼女達を発見する。

そして、主人公が勤める事務所の隣の歯科医院には「笠原メイ」と言う名の女の子がいる。
「ねじまき鳥」に登場する「笠原メイ」の名前はここからとられたのだろうが、キャラクターはまったく異なっている。

全体として、初期の村上春樹の乾いた雰囲気を思い起こさせる。



「ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界」

短編ならではの言葉遊び。



「ねじまき鳥と火曜日の女たち」

これは題名とおり長編の「ねじまき鳥」のベースになっている作品。

長編の初めの部分が、ほぼこの時点で出来上がっていたということがわかる。

長編の「ねじまき鳥」を読んだ人なら、この短編からあれだけの長編にまで膨らんでいく、作家の仕事について思いを馳せることになる。


やっぱり名作だ。





パン屋再襲撃 (文春文庫)
村上 春樹
文藝春秋
売り上げランキング: 83773
おすすめ度の平均: 4.0
4 虚無感と自己嫌悪感の漂う初期作品集
5 村上さんは短編が秀逸
5 何といっても「ファミリーアフェア」
3 村上春樹はこんなに詰まらなかったのか、と一寸、驚いている。
5 不思議さん



個人的村上春樹Best10 第5位 

個人的村上春樹Best10 

第5位は






「1Q84」






なぜニュースになるほどのベストセラーになったのだろう。

あれほど世間で話題になったのは、ノルウェイの森以来ではないだろうか。
おかげで、入手するのにしばらく時間がかかった。

やれやれ。

大好きな作家だし、多大な人気があることも承知しているが、万人受けする作家ではないような気がするのだが。
独特の展開と文章を受け入れられない読者もたくさんいただろうに。


世間よりもやや遅れて読んだ村上春樹の「1Q84」は、期待を裏切らない非常に面白い小説だった。

驚いたことに、彼が書いた以前の長編小説よりも格段に内容が「わかりやすく」なっている。

このストーリーがだめな読者は、おそらく彼のこれまでの長編作品のどれを読んでも受け入れることができないだろう。
それほど「村上臭さ」が以前より薄れている。

相変わらず、ある種のメタファーなのか、それとも読者に謎を仕掛けているのか、わかりかねる部分が多々あり、戸惑う面はある。

それでも、以前よりもストーリーに吸引力がある。
淡々とページを繰るのではなく、次の展開が待ち遠しくて先へ先へと読み進むのは初めてかもしれない。


ストーリーは、彼得意のパラレルワールド。

登場人物は、新人が書いた小説の書き直しの片棒を担がされる、小説家の卵「天吾」。

もう一人は、美貌の殺し屋「青豆」。


それぞれ過去に複雑な家庭事情を持ち、現在はそれぞれたった一人で生活を送っている。


まったく関連性がない二人の物語が、あるところから微妙に交わっていく。

ところどころに散りばめられたヒントのようなキーワードは、さながら「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」のようだ。

しかし、このストーリーは天吾と青豆という登場人物が、それぞれのゴールを目指す。
そういった点でのストーリー展開は「海辺のカフカ」の要素もある。

日本赤軍、ヤマギシ会、エホバの商人、オウム真理教。
過去に実際にあったさまざまな事象を髣髴させる団体をベースに、小説家の卵と、美貌の殺し屋のストーリーは展開する。

これは間違いなく、村上春樹の生涯のテーマである「生と死」をベースにした純愛小説である。


あの日、教室でしっかりと握られた手。
その手のぬくもりを、いつまでたっても心から消すことができなかった。
その手のぬくもりの記憶だけで、人は生きていくことができる。



思い起こせば、ノルウェイの森も大ベストセラーだった。
今回「1Q84」がこれほどの部数が売れたのも、無意識に恋愛小説を人々が求めたからなのだろうか。

上下それぞれ500ページ以上の分厚いストーリーの果てにたどり着いたのは、驚くことに村上春樹が提示する「愛」だった。

第3部が今から楽しみで仕方ない。






1Q84 BOOK 1
1Q84 BOOK 1
posted with amazlet at 10.01.21
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 159
おすすめ度の平均: 3.5
3 何が言いたいのだろう
2 村上春樹21
4 混沌の時代をシンプルに描く複雑な物語
1 げんなり
3 青豆さんって最初ビッチだと思ってたけど




1Q84 BOOK 2
1Q84 BOOK 2
posted with amazlet at 10.01.21
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 168
おすすめ度の平均: 4.0
5 なるほどこれが村上春樹ワールドなのか
5 こんなハルキ初めて!
4 読ませる力はさすが!
5 現代の神話「1Q84」
1 ベストセラー?嘘でしょ。





個人的村上春樹Best10 第6位 

個人的村上春樹Best10 

第6位は






「海辺のカフカ」






村上春樹得意のパラレルワールドが展開していく。

世界一タフな15歳を目指す「僕」は、昔から「カラスと呼ばれる少年」のアドバイスを受けながら抑圧された日々を送っていた。
そして、15歳になった彼は父親からの自立を目指して、一路高松を目指す。

たどり着いたのは個人が設立したとある図書館。

名前を聞かれ、彼が名乗ったのは「田村カフカ」。

彼は受付の大島さん、館長の佐伯さんと不思議な距離感を保ちつつ、図書館で暮らし始める。


一方、戦時中の小学生時代に不可思議な現象を経て、一切の記憶をなくしてしまったナカタさん。
彼は猫の言語を話すことが出来るために、家出猫を探すことでわずかな報酬を得ながら暮らしていた。

ゴマという子猫を探している時だった。

公園で黒い犬に先導され、とある屋敷を訪れたナカタさんは「ジョニーウォーカー」さんから、とあることを頼まれる。

ふと我に返ったナカタさんは、西へ向かうことにした。

自分でも理由はわからないまま。

道中、トラック運転手の星野青年と行動を共にすることになり、彼らがたどり着いたのもなぜか高松だった。




田村カフカは、佐伯さんが昔出したレコード「海辺のカフカ」と、壁に飾ってある「少年の絵」をきっかけに佐伯さんの心の中に入り込んでいく。

ナカタさんと星野青年は、「カーネルサンダース」の力を借りながら、「入口の石」を探す。

田村カフカとナカタさん。

これまで何の接点もなかった二人が、なぜか徐々に近づいていく。



ファンタジーの香りがするがファンタジーではなく、推理小説風だが、推理小説ではない。

荒唐無稽な現象が続発するものの、この物語の中ではそんなことが当たり前に思えてしまう。

読者はそうやって村上春樹に感化されながら、不思議な好奇心を維持し続けながら、最後まで読み続けてしまう。


やはりこの作品にも、村上春樹のテーマである「生と死」が根底に流れている。
死があることによって生が強烈に浮かび上がる。
しかし、生と死が対極的に描かれているわけでもない。

この描き方が村上春樹独特な雰囲気を醸し出しているのだと思う。

そういえば、田村カフカが森の中で入り込む世界は、「世界の終わり」の街に非常によく似ている。






海辺のカフカ (上) (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 2084
おすすめ度の平均: 4.0
4 ~ 寓話と象徴の謎かけに満ちた、想像膨らむ良作。 ~
4 中々面白いと思います。
5 不思議な世界への扉が開きます
4 貴方の創造力は可か不可?
4 むずかしいかもしれないですね






海辺のカフカ (下) (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 2393
おすすめ度の平均: 4.0
5 海辺のカフカ。面白いです。
4 15歳の少年はどこへいく
4 色んな謎に対しての読解力に限界を感じた
3 白い怪物って何?
2 解決編なきファンタジーポルノ







個人的村上春樹Best10 第7位 

個人的村上春樹Best10 

第7位は







「蛍・納屋を焼く・その他の短編」







村上春樹の中でメジャーな短編集。

メジャーである理由は短編「蛍」。
この「蛍」こそ、あの「ノルウェイの森」の元になった短編だから。

短編であるにもかかわらず、「蛍」が心に残る理由は、私が先に「ノルウェーの森」を読んでいたせいかもしれない。

「蛍」には「ノルウェーの森」で深く感じることになる「生と死」の概念が濃縮されているからだ。

「ノルウェーの森」で感じた、底知れぬ死への不安と生への期待の「コア」がこの短編「蛍」には含まれているからだ。


 僕はそれまで死というものを完全に他者から分離した独立存在として捉えていた。つまり「死はいつか確実に我々を捉える。しかし逆に言えば、死が我々を捉えるその日まで、我々は死に捉えられはしないのだ」と。それは僕には至極まともで論理的な考え方であるように思えた。生はこちら側にあり、死はあちら側にある。
 しかし、僕の友達が死んでしまったあの夜を境として、僕にはもうそのように単純に死を捉えることはできなくなった。死は生の対極存在ではない。死は既に僕の中にあるのだ。そして僕はそれを忘れることはできないのだ。



「蛍」以外にも「納屋を焼く」、「踊る小人」、「めくらやなぎと眠る女」といった珠玉の短編を堪能できる。


人知れず、納屋を焼くことが趣味である青年と知り合ったが故に、近所の納屋が気にかかる「納屋を焼く」。


象工場に勤めながら、小人の力を借りて女性をものにしたはずが・・・「踊る小人」。


耳の悪い従兄弟を病院に連れて行くバスの中は老人だらけだった「めくらやなぎと眠る女」。


もう何度読み返したかわからないほどの短編集だが、何度読んでもその度に新鮮さがある不思議。

村上春樹のこのテイストがたまらなく好きだ。







螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 67768
おすすめ度の平均: 4.0
3 初期のムラカミワールド
5 蛍しか読んでないですけど
4 私小説の終わりと、その後のワン・ディケイド。更に、それから。
4 やはり納屋を焼くが良い!
3 納屋を焼くがいい







個人的村上春樹Best10 第8位 

個人的村上春樹Best10 

第8位は





「カンガルー日和」





村上春樹の短編には、長編とはまた違った趣がある。

短編特有の遊びをふんだんに盛り込みつつ、しかし彼独特の雰囲気は損なわれていない。



この短編の中でのお気に入りは、「ある晴れた日に100%の女の子に出会うこと」。
この短編作品だけで8位にする価値がある。

この話は「昔昔」で始まって、「悲しい話だと思いませんか」で終わる。
私が村上春樹の短編の中で、もっとも好きな短編のひとつだ。

なぜなら彼の小説のテーマは「生死」、「恋愛」がほとんどであり、そのうちの「恋愛」の部分のエッセンスがこの「100%」に濃縮されているからだと思う。




それは傍から見るととても不確かで、しかし自分の感性の中では確信に近い。

でも相手はどうなんだろう、と考え始めると不安で仕方ない。
と書いてしまうとただの普通の恋愛なんだが、本人にとってはかなりドラマティック。

期待、確信、不安、葛藤、落胆。

こんな要素が短い物語の中にうまく詰め込まれ、春樹ワールドを堪能できる。

今まで20年にわたって何度読み返したかわからない(少なくとも10回以上)が、何度読んでもすばらしい。



4月、晴れた朝、原宿の裏通り、花屋の前。

遠くからやってきたのは、僕にとってはまさしく100%の女の子だった。
一般的な美人ではないけれど・・・



他の短編の中には「羊をめぐる冒険」に出てくるいくつかのシーンを見つけることができる。

雪の降る札幌の町、そして羊男。


長編の断片を見るようで、ファンとしてはやっぱり楽しい。





カンガルー日和 (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
売り上げランキング: 37945



個人的村上春樹Best10 第9位 

個人的村上春樹Best10 

第9位は





「中国行きのスロウボート」



 


村上春樹の最初の短編集。
書かれた時期は「1973年のピンボール」と「羊をめぐる冒険」のあたり。

私がこの短編を読んだのは随分後だったが、初めての短編集だったと知って驚いた。


基本的には長編小説家で、その合間に短編小説を書いたり、翻訳をこなしたりするのが村上春樹。

それでもその短編小説はいつでも一定のクオリティを保っているのが村上春樹。


この短編集を読んで改めて気づくが、彼は「最初から」短編が上手かったのだ。

ファンに評判の良い「午後の最後の芝生」はこの短編集に収まっている。
私もかなり大好きだ。


芝生刈り、中年の女、夏の日差し、若い女性の部屋。

初めて読んだときに思い浮かべた光景を、今でもあの頃と同じように思い浮かべることができる。

読んでいて、夏の日差しと共に心を占めるのはある種の切なさか。

それはおそらく読む者によって違う種類のものだろう。

悲しさとはまた違う、夏の儚さとともに思い出される自分の切ない思い出と微妙に絡み合ってしまう要素が、「午後の最後の芝生」にはある。


秀逸だ。


そして、「シドニーのグリーン・ストリート」では羊男が登場する。

長編小説の筋とは関係ないが、ファンとしてはうれしい。








中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)
村上 春樹
中央公論社
売り上げランキング: 87440
おすすめ度の平均: 4.5
5 高レベルな短編ばかり
5 珠玉の短編小説
5 『午後の最後の芝生』のみずみずしい作品のタッチが、とても素敵だ
4 つまり・・
4 今、ここに存在しない感覚